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2006年1月 7日 (土)

自民党は新憲法草案で「戦争放棄」の放棄を謳うのか?

自民党は新憲法草案第二次案で,第九条を現行の140文字程度から620文字程度に増やす案を提示している。

現行は極めてシンプルである。

第二章 戦争の放棄
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、
 国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は 武力の行使は、国際紛争を
 解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。
 国の交戦権は、これを認めない。

明快である。「戦争を放棄する」,「軍隊を持たない」,「交戦はしない」。

それに対し,自民党案から抜粋すると,

第二章 安全保障
(安全保障と平和主義)
第九条 日本国民は、(101文字省略)この理念を将来にわたり堅持する。
2 前項の理念を踏まえ、国際紛争を解決する手段としては、戦争その他の
 武力の行使又は武力による威嚇を永久に行わないこととする。
3 (74文字省略)
(自衛軍)
第九条の二 侵略から我が国を防衛し、(25文字省略)自衛軍を保持する。
2 自衛軍は、自衛のために必要な限度での活動のほか、法律の定めるところにより、
 国際社会の平和及び安全の確保のために国際的に協調して行われる活動並びに
 我が国の基本的な公共の秩序の維持のための活動を行うことができる。
3 自衛軍による活動は、我が国の法令並びに国際法規及び国際慣例を遵守して
 行わなければならない。
4 自衛軍の組織及び運営に関する事項は、法律で定める。
(自衛軍の統制)
第九条の三 自衛軍は、内閣総理大臣の指揮監督に服する。
2 前条第二項に定める自衛軍の活動については、事前に、時宜によっては事後に、
 法律の定めるところにより、国会の承認を受けなければならない。
3 前二項に定めるもののほか、自衛軍の統制に関し必要な事項は、法律で定める。

衣の下の鎧が丸見えではないか。

まず,条文ではないが章題が「戦争の放棄」から「安全保障」へと変わっている。
条文の中で「戦争を行わない」と書いてはいるものの,「安全保障」のためには限りなく戦争に近い行為,いや戦争と呼ぶ方がふさわしい行為を許容しようとしているとしか思えない。
広辞苑によれば,「武力」とは,「武勇の力。また,軍隊の力。兵力。」とある。
「武力の行使又は武力による威嚇を永久に行わない」と言いながら,「軍」を持つというのは明らかに矛盾である。

また,「国際社会の平和及び安全の確保のために国際的に協調して行われる活動」を「法律の定めるところにより」行うとしている。自民党案では,この「法律の定めるところにより」という文句が多用されている。これは別途に法律で定めれば,多様な事項に関し「憲法違反」とされずに定めることができることを意味している。
第九条の二の3項と4項,第九条の三の2項と3項においても,法令や法律に基づき軍の活動や運営を定めるとしており,これはすなわち,法令を作ってしまえば,「合憲」のもとに軍のかなり広範囲な活動が許容されてしまうということである。

しかも,軍の活動について,「事後」に国会承認することさえ許容している。これは完全になし崩しである。「事後」に国会が承認しないということは,余程のことが無い限りあり得ないであろうし,相手のあることなので,国会で承認しようがしまいが,やってしまったことは国際的には事実として残ってしまう。
これは,実質的に軍に対する憲法の規制を事実上「有名無実」化するものである。

要するに,「武力行使は行わない」と言った後に,素知らぬ顔をして矛盾する「軍の保持」を謳い,軍の有り様は法律で如何様にも決められるとしている。

武力行使に縛りをかける文言は,唯一「国際紛争を解決する手段としては」だけである。
つまり,アメリカが「国と国の戦争ではなくテロリストから人民を守る治安維持の活動である」と言いながら,実質的に戦争を続けていても,これに協力することを憲法では規制できなくなってしまう。

「軍」である以上,治安維持が目的であっても,武器を使用すれば「交戦」である。だから「交戦権」に関する記述を削除した上で,「戦争」ではなく「治安維持」だと言ってしまえば,法律さえ作ってしまえば外国においてでも何をやっても良い状態にしようとするものである。

日本海新聞の特集で石破茂議員を含む鳥取県選出の国会議員が行った憲法改正談義に関する記事がある。
その中で,石破議員が,「九条に関しては現行憲法の解釈で対応可能ではないか」との問いに,「解釈によってどうにでも変わる方がよほど危険。読んでも分からないようではいけない。『国権の発動たる戦争』とは何かわからない。解釈は変えられる。」などと答えているが,では,草案の「戦争」とは何か,誰でも明快に理解できるのだろうか。「国権の発動たる」を取ったことで,「これは戦争ではなく平和維持活動だ」と言ってしまえば何でもできることになってしまう。「国権の発動たる」を付けることで,例え他国の侵略行為に対して限定的な戦闘状態が発生しても,それが該当部隊の正当防衛のための戦闘行為であれば,例えそれを「戦争」と解釈しても「国権の発動」ではないので合憲とできるのに対し,草案では「国権の発動たる」を削除して定義があいまいな「戦争」だけを行わないとすることで,国の正式決定に基づいた戦闘行為でも,「これは戦争でない」と言ってしまえば合憲とできてしまう。

石破議員の言う,「難解なものは平易に」という考えは,厳密な記述を曖昧にすることになってしまう。
厳密に記述をすれば,一見難解になるのは当然で,平易な表現にすることは「解釈で変えられないようにする」こととは反対のことである。
石破議員の発言は,一見もっともらしいが,解釈や法律で様々なことを合憲とするための詭弁としか思えない。

以上,レッツら さんの記事と基本的には同じ事を言っているだけのようになってしまったが,ともかくも,上で書いた,「章題が『戦争の放棄』から『安全保障』へと変わっている」ことがすべてを物語っているように思うのだが,どうだろうか。

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コメント

TBありがとうございました。「安全保障」などという奇妙な言い方で、戦争をなし崩し的に正当化されたくありませんね。

投稿: 華氏415度 | 2006年1月23日 (月) 01時47分

華氏451度 さん,コメントありがとうございます。
本当ですね。政府のやり方は拙速の一言に尽きることが多すぎると思います。

投稿: WontBeLong | 2006年1月23日 (月) 21時43分

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